戦略が現場で止まる――これは、多くの企業で起きている深刻な課題です。
Asana導入を検討中の方へ:双日テックイノベーションが支援します
情報が散在し、進捗が見えないまま意思決定が遅れ、投資効果(ROI)が目に見えないままになります。Asanaは「ゴール(戦略)→プロジェクト→タスク」を一貫して結び、経営がデータで判断できる状態にするワークマネジメントプラットフォームです。
本稿は、経営判断に直結するKPIの設計、3ヶ月パイロットの具体手順、暫定ROIシミュレーション、そして導入定着のための実務チェックリストを1ページで完結させるハンドブックです。
経営が直面する課題の本質:なぜ戦略は止まるのか?
多くの現場で起きている典型的な課題は次の3点に集約されます。
- 進捗の不透明性 — 情報がスプレッドシートやメール、社内ツールに分散しているため、経営がリアルタイムに判断できない。
- ボトルネックの属人化 — 誰が停滞させているか分からず、リソースの再配分が遅れる。
- ROIの見えにくさ — 会議時間や隠れた工数が集計されておらず、投資対効果の算出が困難。
これらはツールの問題だけでなく、プロセスと組織の設計の問題でもあります。Asanaのような一元化ツールは、情報の散在を解消し、経営に「単一の真実(single source of truth)」を提供するための土台になります。
Asanaが経営にもたらす価値(機能と経営インパクト)
主な価値ポイント
- ゴール(OKR)とタスクの紐づけ:戦略レベルのゴールに対して、どの仕事が貢献しているかを辿れるようにする。
- ポートフォリオビュー:複数プロジェクト(業務)の進捗・リスク・優先度を一画面で比較できる。
- ワークロード管理:個人・チームの負荷が可視化され、リソース分散や割り振りのための意思決定がしやすくなる。
- 多様な表示形式(リスト、タイムライン、ボード等):プロジェクトの性質に合わせた見え方で現場の使いやすさを担保。
さらに、最近のAsanaはAI支援機能(レポート自動生成・リスク予測・自然言語検索)といった自動化が加わり、報告や検索の時間を削減することで実務効率を更に高めます。これにより、経営側は「何が問題か」「どこに人を振るべきか」をより早く判断できます。
経営が指示できる、ROIを示すための実務ステップ(短く)
実務でROIを示すには「計測→パイロット→金額換算」のシンプルな流れで進めることが理想的です。
ステップA:Baseline(現状把握) — 1ヶ月で完了可能
収集すべき最小データ:
- 納期遵守率(過去3ヶ月平均)
- 月間遅延プロジェクト数
- 週次会議時間(部門単位)
- 月間工数(プロジェクトに割かれる時間)
実務ヒント:Excelからの簡易エクスポートや、主要プロジェクトリーダーへの短アンケートで早急に集める。
ステップB:3ヶ月パイロット設計(推奨)
- 対象:影響度が大きい2〜3プロジェクト(20〜50ユーザー)
- 期間:3ヶ月(導入1ヶ月+運用2ヶ月)
- 必須KPI:納期遵守率、遅延件数、会議時間/月、アクティブユーザー率(週1以上)
- 成功判定:設定したKPIが目標値を満たすか(例:納期遵守率 +10pp、会議時間 −20%)
ステップC:効果の金額換算(簡易式)
- 年間工数削減(時間) × 平均時給 = 年間効果(円)
- 初年度コスト = 年間ライセンス + 初期設定費 + トレーニング費用
- 単純ROI = (年間効果 − 初年度コスト) ÷ 初年度コスト
- Payback(月) = 初年度コスト ÷ (年間効果 ÷ 12)
暫定シミュレーション(想定前提と結果:一目で分かるサマリ)
導入の進め方は大きく2つに分かります。網羅的(Comprehensive)は「可能な限り多くの業務をAsana上で一元管理し、コミュニケーションと情報を統合する」アプローチです。早期に情報の一元化を進められれば大きな効果が期待できますが、初期コストや組織的抵抗のハードルは高くなります。
一方、段階的(Phased)は「まずは高インパクトの業務領域だけを移行し、効果を証明しながらスケールする」アプローチです。リスクは低く、経営承認も得やすい反面、効果の現れ方は緩やかになります。
想定前提(本文内共通)
- 利用ユーザー:50名
- ライセンス:¥2,700 / 人 / 月
- 初期導入費(設定・トレーニング):¥2,000,000
- デフォルト時給(換算):¥3,000 / 時(感度例:¥2,500 / ¥3,000 / ¥3,500)
ROI比較(網羅的 vs 段階的)
指標 | 網羅的 | 段階的 |
---|---|---|
月間工数削減(想定) | 200 時間 | 100 時間 |
年間効果(時給3,000円) | 2,400 × ¥3,000 = ¥7,200,000 |
1,200 × ¥3,000 = ¥3,600,000 |
年間ライセンス | ¥1,620,000 | ¥1,620,000 |
初期導入費 | ¥2,000,000 |
¥2,000,000 |
合計初年度コスト | ¥3,620,000 |
¥3,620,000 |
単純ROI(初年度) | 約 99% | 約 −0.6% |
回収期間(Payback) | 約 6.0ヶ月 |
約 12.1ヶ月 |
一目の結論:時給を¥3,000で見積もると、網羅的に導入して月200h削減が実現できれば初年度でほぼ投資回収が可能(回収約6ヶ月)。一方、段階的に100hしか削減できない想定だと初年度での回収は難しく、回収はほぼ1年程度になります。
感度の要約(抜粋)
- 時給が低め(¥2,500)・削減が少ない(100h/月)だとROIは大幅に低下、場合によってはマイナスとなる。
- 時給を高め(¥3,500)または削減時間を増やす(200h/月)とROIは大きく改善する(例:時給3,500円で200hならROI ≈132%)。
解釈と実務的示唆(短く)
- 「段階的だから安全」は誤解のもと:段階的に始めるなら必ず「高インパクト領域」から着手して月間削減時間を確保すること。
- 時給(換算)の設定が結果を左右するため、自社の実数(職種別時給)で必ず再計算すること。
- 数値だけでなく非金銭的効果(顧客満足、スピード、リスク低減)も考慮すると、投資判断はより現実的になります。
推奨アクション(すぐできる)
- まずはBaseline(会議時間・報告作成時間・手戻り)を1ヶ月で取得し、上記の前提に当てはめて感度計算する。
- 本文の想定値で算出したROIにおける効果が不十分なら、対象プロジェクトの選定を再検討(よりステークホルダー多、会議多の案件を選ぶ)。
注記:ここで示した数値はサンプルです。自社の実数に置き換えて計算してください。
まとめ表
項目 | 網羅的(Comprehensive) | 段階的(Phased) |
---|---|---|
定義(短) | 可能な領域を広くAsana上で一括管理し、コミュニケーションと情報を統合する一括導入 | まず高インパクトの一部業務だけを移行 → 効果を検証しながら段階的に拡大 |
初期投入(コスト・工数) | 高(全社設定・トレーニング・PMO負荷が大) | 低〜中(小スコープの設定・限定的トレーニング) |
リスク | 組織抵抗、導入失敗時の痛手が大きい | 失敗リスクは小さいが、効果出現は緩やか |
期待される短期効果 | 高(可視化の範囲が広く、Quick winの総和が大) |
中(対象を絞るため即効性は出るが全体効果は限定) |
成功の鍵(必須) | 強いトップダウンのコミット、全社PMO、徹底した定着施策 |
影響度の高いパイロット選定、早期のQuick-win創出、段階的拡張計画 |
推奨される企業状況 | 変革リソース(PMO/教育)を十分に確保でき、文化変革の覚悟がある企業 | リスク回避したい、またはまず事例で説得したい企業(ベンチマーク作成に最適) |
代表的な採用対象 | 全社業務統合、グローバル展開、複数部門横断のプロセス改善 |
新製品ローンチ、キャンペーン、特定の事業部プロジェクト等 |
時間的視点 | 短中期で大きな所与効果(ただし導入準備に時間) |
短期で小〜中効果、段階的に拡大で累積効果を狙う |
推奨KPI(導入直後) | ゴール達成率(OKR連動)、プロジェクト納期遵守率、会議人時削減、ワークロード偏差 |
遅延プロジェクト数、会議時間、アクティブユーザー率、必須フィールド入力率 |
導入定着(実行しやすい5項目テンプレ) — 誰が/何を/いつまでに
まず着手すべき5項目
- チャンピオンの確定(誰:役職名 / いつ:Week0)
- 事業部長またはCXOをチャンピオンに指名し、週次レビュー参加を約束してもらう。
- パイロット対象の決定(誰:PMO / いつ:Week0)
- 影響度が高く協力的な2〜3プロジェクトを選定する。
- Baselineの確保(誰:PMO / いつ:Week0〜1)
- 納期遵守率・遅延件数・会議時間を直近1〜3ヶ月分で揃える。
- テンプレ導入(誰:Solution / いつ:Week0〜1)
- 必須フィールド(期日・オーナー・リスク)に限定してテンプレ化し、入力の敷居を下げる。
- 週次運用ルール(誰:SPOC / いつ:Week1以降)
- 例:週初めに今週期限/期限切れタスクを整理し、責任者より状況報告のコメントを入れる
継続的KPI目標(参考)
- 必須フィールド入力率 ≥ 90%
- アクティブユーザー率(週1回以上) ≥ 80%
- 更新停滞(最終更新7日超) ≤ 10%
よくある障壁と経営の対応
- 使われないリスク → 管理職の評価項目に「運用達成度」を一部組み込み、トップダウンのコミットを示す。
- 入力品質低下 → 必須項目を最小化し、PMOが週次でサンプリング監査を実施する。
- 機能過多で複雑化 → 段階的導入(まずはテンプレート化して最小限の入力/操作から、その後に拡張)で機能過多による混乱を防ぐ。必要な機能は後追いで追加。
業種別:よくある課題(Pain Points)とAsanaでできる対処
業種別ヒント(課題ベース)
以下は業界ごとに「よくある現場の課題」を列挙し、それぞれに対するAsanaでの具体的な打ち手を示します。事例セクションと合わせて読むと、貴社で狙うべきパイロット対象が見えてきます。
■IT(ソフトウェア開発・SI)
- 課題1:依存関係の可視化が不十分で、仕様変更の波及が遅れて発見される。
→ 対処:タイムラインと依存関係表示で影響範囲を即時可視化し、変更時の優先度再配分を迅速化。 - 課題2:設計差し戻し・手戻りが多く工数が膨らむ。
→ 対処:タスクに受入条件(Definition of Done)とチェックリストを組み込み、ステータス更新で再作業を抑制。 - 課題3:複数チームの連携不足でリリース遅延が発生する。
→ 対処:ポートフォリオで横断プロジェクトを管理し、クリティカルパス上のボトルネックに経営リソースを集中。
推奨パイロット:大規模リリース/マルチチーム開発プロジェクト
■建設・土木・現場作業
- 課題1:現場の進捗が本社に遅れて伝わるため判断が遅延する。
→ 対処:モバイルからの現場更新を標準化し、リアルタイムでダッシュボード反映。 - 課題2:外注(協力会社)との作業調整で手戻り・調整コストが大きい。
→ 対処:外注タスクをAsana上に集約し、承認フローと期限管理を自動化。 - 課題3:安全・品質のチェックが抜け落ちるケースがある。
→ 対処:チェックリストを必須にして完了条件とSOPを統一、監査ログを残す。
推奨パイロット:現場-本社連携が頻繁な工事プロジェクト(複数班の調整案件)
■製造(生産管理・サプライチェーン)
- 課題1:ライン間や外注との納期ズレが発生しやすい。
→ 対処:工程ごとの依存関係と完了条件を可視化し、遅延の早期検知と代替手配を迅速化。 - 課題2:部品調達や検収のステータスが分散しており、遮断要因が見えにくい。
→ 対処:サプライヤーのステータスをAsanaで追跡し、遅延リスクをKPI化して管理。 - 課題3:現場から経営までのレポーティングが定型化されていない。
→ 対処:テンプレ化された月次レポートを自動化し、経営判断に必要な指標を一枚で提示。
推奨パイロット:外注が絡む生産ライン改善プロジェクト/納期改善イニシアチブ
■小売/マーケティング(店舗運営・販促)
- 課題1:キャンペーンや販促のタスクが複数チャネルで分断される。
→ 対処:ポートフォリオでキャンペーン全体を管理し、KPI別(CTR・売上)で優先度を付与。 - 課題2:クリエイティブ承認や素材管理で手戻りが発生する。
→ 対処:アセット管理と承認ワークフローをAsanaに統合して、承認待ち時間を短縮。 - 課題3:店舗オペレーションのローカル差が多く、標準化が進まない。
→ 対処:業務テンプレを配布し、対応率と入力品質をKPIで追跡して改善を促進。
推奨パイロット:大規模キャンペーンの横断管理/複数店舗のオペレーション標準化プロジェクト
■全業種共通の短期着手ポイント(必須)
- 「どの課題を解くのか」を目的語を明確にした上で1行で定義する(例:キャンペーンの承認遅延を半減)。
- パイロット対象は「課題のコストが高い」案件を選ぶ(会議人時・外注コスト・機会損失で損失が大きい案件)。
- Baselineを必ず取る(会議時間・報告時間・手戻り時間など) — 効果測定の土台になります。
実行ロードマップ(Week0 → Week12 → 判定)
- Week 0(準備):経営承認、PMO設置、Baseline収集、テンプレ設定(Deliverable:KPI定義シート)。
- Week 1–12(パイロット):トレーニング、運用、週次レビュー、月次評価(Deliverable:月次評価レポート)。
- Week 13+(判定):KPI達成でスケール、未達なら原因分析・再設計(Deliverable:全社展開計画 or 再設計案)。
<Asanaで実現する実行ロードマップ(イメージ)>
事例ショート
製造業X社(匿名) — 事例要約
課題:複数拠点の納期遅延が常態化。
施策:Asanaに工程と外注管理を集約、ワークロードでリソース再配分。
成果:納期遵守率 +12pp、会議時間 -30%、導入6か月で一部工程の遅延が消滅。
学び:最初の3つのKPIに絞って定着させたことが鍵。
ITベンダーY社(匿名) — 事例要約
課題:リリース遅延と多発する設計差し戻し。
施策:依存関係をタイムラインで可視化し、週次レビューをダッシュボード中心へ移行。
成果:手戻り工数が月120h→60hへ半減。
まとめ & 次の一手
Asanaはツールではなく「戦略を実行するためのインフラ」です。小さく始め、数値で示すサイクルを回すことで、短期間に経営の判断速度とROIが向上します。
今すぐできる3アクション
- 本日中にPilot対象(2〜3プロジェクト)を決める。
- 7日以内にBaselineデータをPMOへ提出する(納期遵守率・会議時間等)。
- 30日以内にパイロットをローンチし、初回の週次レビューをスケジュールする。
FAQ
Q1: Asana導入でどれくらいで効果が出ますか?
A1: パイロット設計次第ですが、早期(3ヶ月)で会議時間削減や遅延の早期検知といったQuick winが期待できます。
Q2: ROIはどう計算すればよいですか?
A2: 本文の計算式(工数削減×時給 − 初年度コスト)を使って、Baseline数値を代入してください。
- カテゴリ:
- プロジェクト管理