日本の物流業界が抱える課題とは?現状からみる解決策

 2023.03.15  2024.12.02

現在、日本の物流業界はこれまでになかった新たな課題に直面しています。
新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、近年物流業界の需要は右肩上がりである一方、従来問題視されていた点や社会情勢の変化を背景に、企業はビジネススタイルの変容を迫られています。
本記事では、物流業界の現状と課題から具体的な解決策までを解説します。

日本の物流業界が抱える課題とは?現状からみる解決策

日本の物流業界が抱える課題とは?


現在の物流業界が抱える課題は、ECサイトの普及や少子高齢化、さらに世界情勢の影響を受け、一層複雑化しています。
ここではまず、物流業界の現状と課題について整理します。

過酷な労働環境


物流業界の中でも特にドライバー業は、肉体を酷使する職種です。
元々長距離移動や肉体労働により、身体に大きな負担がかかりやすい点が物流業界では問題視されています。
さらに国土交通省の調べでは、令和3年(2021年)度の宅配便取扱個数は49億5323万個であり、前年度比で2.4%増とその個数は年々増加傾向です。この母数の増加により再配達の数も増えているため、より肉体的な負担が増大するようになってしまいました。

そこに拍車をかけたのが、新型コロナウイルス感染拡大に端を発した外出自粛の風潮です。外出自粛によりECサイトやそれに付随するインターネットサービスの需要が増え、物流業界も忙しさを増しました。これにより更なる労働を強いられ、労働環境が過酷化してしまっている、という現状があります。

厚生労働省発表の「賃金構造基本統計調査」によると、令和3年(2021年)度の全産業の平均労働時間は2,112時間です。しかし、中小型トラックドライバーは平均2,484時間、大型トラックドライバーは平均2,544時間とされており、平均と比べると約350〜400時間長く業務に拘束されている実態が見て取れます。

一方で所得面は、令和3年度平均所得が486万円であるのに対し、中小型トラックドライバーは431万円、大型トラックドライバーでも463万円と平均より30~50万円ほど低額です。
さらにこれを時間当たりの賃金に換算し直すと、全産業平均だと約2,301円ですが、大型トラックドライバーで約1,820円、中小型トラックドライバーでは約1,735円となります。

このように長時間労働の慢性化に加え、低水準な賃金がドライバーに掛かる負担を大きくしています。

ドライバー不足


過酷な労働環境のドライバー業は、慢性的な人材不足にも悩まされています。

厚生労働省の「職業安定業務統計」によると、令和4年6月時点での有効求人倍率は全職業では1.09ですが、貨物自動車運転者は2.01と、物流業界全体でのドライバー不足の実情が分かります。
また、この傾向は近年の少子高齢化によってなお一層強まっており、ドライバーの高齢化が顕著となっています。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、トラック運転手の約45%は40~54歳です。一方で29歳以下は9.1%しかおらず、全産業における29歳以下の割合である16.3%を大幅に下回っています。

このまま若い働き手が集まらず、ドライバーの高齢化が進むと、荷物はあってもドライバーが足りないために配達できないという事態にもなりかねません。

燃料費の高騰


原油価格の変動によってコストが大きく左右される点も、今後の物流業界における大きな課題です。
ここ数年で見ると、2020年前後に起こった新型コロナウイルス感染拡大の影響により、原油価格は一時暴落しましたが、世界経済の回復に伴う原油需要の高まりにより、翌2021年から燃料費の高騰が続いています。

さらに、石油輸出機構(OPEC)が価格の再下落を恐れて原油の増産を控えている点や、アメリカの長期金利引き上げ政策による円安ドル高、ロシアからの輸入規制などにも影響され、現在でもなお、原油価格の高騰が続いています。

この状況では企業としては運送料金を値上げしなければ採算が取れません。しかし、運送業者は荷主に対する取引上の立場が弱く、値上げ交渉に応じてもらいにくいのが現状です。

結果として、そのしわ寄せはドライバーをはじめとしたスタッフに及び、労働環境の悪化にも拍車がかかっています。

2024年問題による影響


「2024年問題」とは同年4月から働き方改革の一環として、トラック運転手の時間外労働時間の上限が年間960時間となることで生じる諸課題の総称で、人手不足や高齢化などに関わる問題として注目を集めています。

従来ドライバー業では、長時間労働が慢性化していました。この事実は令和3年(2021年)度に時間外労働が960時間を超えたドライバーがいると答えた企業は全体で27.1%、長距離ドライバーだと48.1%に上っていることからも読み取れるでしょう。
そのため時間外労働時間の上限設定は一見すると良い傾向に思えます。
しかし、労働時間が短縮されれば輸送できる荷物量も減ってしまい、運賃を上げない限り収益が減少してしまうという問題が新たに発生します。前述の通り運賃の値上げは困難なため、荷主との交渉がうまく進まない限り収益は総じて減少してしまうでしょう。
また、ドライバーは走行距離に応じて運行手当が支給されるのが通常です。労働時間が短縮されればドライバー自身の収入も減少してしまいます。つまり、このまま何も施策を講じず2024年を迎えると、多くの企業では離職率が高まり、さらなるドライバー不足に見舞われるでしょう。

さらに、この上限は罰則付きで設定されるため、もし違反すれば労働基準監督署からの是正があるだけでなく、最悪の場合は行政処分の対象になってしまいます。実際にこれまでも、30日間の事業停止や車両の使用停止などの措置が取られたケースもあるので注意しなければいけません。
人手不足と法令遵守の板挟みに悩む企業は、トラックドライバー数の維持・増員や、輸送網再編などの効率化を求められているため、大きな負担を抱えているのが現状です。

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日本の物流業の課題を解決するには?


このように、現在日本の物流業界には解決を急務とする課題がいくつも存在します。
一方で昨今、課題解決のための取り組みや新たな技術も登場しています。今後さらに厳しい状況に陥るであろう物流業界においては、自社の状況に応じて適切な解決策を講じることが不可欠です。

モーダルシフトを進める


「モーダルシフト」とは、トラックなどの自動車を使った輸送手段を、鉄道や船舶など大量輸送が可能な他の手段に転換する取り組みです。

元々モーダルシフトは、二酸化炭素排出量の削減といった環境負荷の軽減を目的とした取り組みでした。
たとえば、1tの荷物を積んで1㎞進む場合の二酸化炭素排出量は、船舶だとトラックの5分の1、鉄道では10分の1程度となるため強く推進されていましたが、近年ではトラックの貨物輸送量の減少がドライバーの負担減につながることから、トラックドライバーの人手不足や長時間労働の解消を図る目的で、モーダルシフトに取り組む企業が増えています。
国土交通省や一部の自治体からは補助金が交付されることもあり、この動きはますます加速していくでしょう。

共同配送を取り入れる


共同配送とは、2社以上が連携して貨物の輸送や保管などの物流業務を行うことです。

共同配送の例としては、A・B・Cの各社が一旦共同の倉庫などに商品を一括納品し、そこから1台のトラックで納品先へ荷物を運送するという取り組みが挙げられます。

この取り組みを行えば、車両1台当たりの積載率が向上するほか、荷役作業の削減・交通渋滞の緩和による長時間労働やドライバー不足の解消・CO2の削減など、物流ビジネスにおけるさまざまなフェーズでの課題解決が図れます。

物流システムを導入する


物流システムの導入で、物流に関わる各工程を効率化する方法も解決策のひとつです。

物流には、「輸送」「保管」「荷役」「包装」「流通加工」の5つの工程が存在します。
従来は、各工程をそれぞれの部署や企業が手作業で個別に管理していましたが、システム化により一括管理することで、大幅な効率化が可能となります。
例として「手分け・手卸などのアナログな作業のデジタル化・正確な在庫管理」「配車やルートの最適化」「輸配送中の荷物のリアルタイム追跡」などが挙げられます。これらシステム化を実施すれば、ドライバーの業務負担の削減も可能です。

業務をアウトソーシングする


システム化にかかる費用を充分に確保できない場合、物流に関する一部または全ての業務をアウトソーシングする方法もあります。
専門業者に物流業務からシステム管理までを外部委託すれば、人件費や梱包費・輸送費の計算やイレギュラーな対応など、物流におけるさまざまな業務の負担を削減できます。委託先の業者はその専門性に裏打ちされたノウハウで、質の高いサービスを提供してくれるでしょう。

たとえば、自社業務に倉庫業・運送業がある場合、運送業を他の業者に委託すれば倉庫業に専念できます。よって自社の人材を営業やマーケティングなど本来の業務に集中できるので、さらなる企業成長のきっかけにもなり得ます。
一方、業務委託にもランニングコストがかかるため、「委託したものの自社の業務とかみ合わなかったので、途中で断念した」とならないよう、委託の際には、自社に合ったアウトソーシング先を見極めましょう。

その他最新の取り組み


物流の課題解決に向けて、上記以外にもさまざまな新しい取り組みがなされています。

そのひとつがドローンやAIの活用です。ドローンを使って各営業所からエンドユーザーへの輸送が可能になれば、配送コストの削減や配送時間短縮につながります。またAIを活用することで、リアルタイムで最も効率の良い配送ルートを予測でき、渋滞や積み替えのための待ち時間などの無駄を省けます。

ほかにも、物流ロボット等を用いたオートメーション化も進んでいます。たとえば倉庫内にAI搭載のロボットを導入し検品や梱包業務、重い物の持ち運びといった単純作業や重労働をロボットに託すことで、人的な負担や人手不足を解消できます。また正確な在庫管理やピッキングも可能になり、トラブルの回避にも役立つでしょう。

まとめ


現在日本の物流業界は、ライフスタイルの変化や社会情勢などの影響を受け、これまでにないような課題の解決に追われています。
問題を解決しこの先も企業が生き残っていくためには、従来の運営方法から脱却し、新たなビジネススタイルを構築していく必要があります。
Asana」はプロジェクト管理や業務のマネジメントが一括で行えるツールです。複数の運行を一度に視覚化や仕事の割り当ての自動化に活用でき、物流業務の効率向上に有用です。トライアルプランもあるので、気になる方はぜひ一度試してみてください。
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