イベントレポート:実例に学ぶ「名もなき業務」「ムダ会議」削減のカギ ~AIを真に活かす「組織OS」の全貌~
本記事からわかること
- なぜ多くの日本企業でAI導入が失敗するのか、その根本原因(「仕事のサイロ化」と「働き方のアップデート」)
- AIの力を真に解放する「組織OS」としてのワークマネジメントの重要性
- 先進企業(パナソニック インダストリー様、KMバイオロジクス様)に学ぶ、AIによる組織変革の具体的な実践方法と「変革ループ」の回し方

Asana大阪エグゼクティブイベントに見る、DXの次なる一手「AI時代の組織変革」の全貌
2025年10月22日(水)、Asanaは大阪でエグゼクティブイベント「働き方のDX ~AIと人が協働するこれから~」を開催しました。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進が多くの企業にとって経営アジェンダとなって久しい中、生成AIの急速な台頭は、その取り組みに強力な、しかし予測困難な変数を加えました。
AIが「第四次産業革命」の中核として、インターネットの登場にも匹敵するインパクトを持つと期待される一方で、多くの日本企業がその具体的なROI(投資対効果)を見出せずにいます。PoC(概念実証)は繰り返されるものの、それが全社的な生産性向上やビジネス変革に繋がらない――。このジレンマの真因はどこにあるのでしょうか。
AI活用やDXを推進する視点から見ると、その真因は「技術」の選定ミスではなく、もっと根深い「組織」の構造的問題にあります。それこそが、本イベントで一貫して指摘された「仕事のサイロ化」です。
AIは、組織全体の仕事の文脈(コンテクスト)を横断的に学習して初めて、真にインテリジェントな「アシスタント」や「エージェント」として機能します。しかし、現実には、財務情報はERPに、顧客情報はCRMに、プロジェクト計画は無数のExcelに、そして日々のコミュニケーションはSlackやTeams、メールに完全に分散しています。
このサイロ化されたデータ基盤の上では、AIは「部門最適」のインテリジェンスしか持ち得ません。例えば、営業部門のAIはCRMのデータからしか学習できず、開発部門のAIは仕様書の変更履歴しか追えません。これでは、部門横断で発生する「仕様変更が営業の納期に与える影響」といった最も重要な問いに、AIは答えることができないのです。
本イベントでは、この「AI以前の課題」を正面から解決する「ワークマネジメント」の重要性と、その先にある「AIを活用した新しい組織のあり方」への具体的な道筋が提示されました。さらに、先進企業2社(パナソニック インダストリー様、KMバイオロジクス様)が、いかにしてこのサイロの壁を乗り越え、変革の「基盤」を築いているのか、その生々しい実体験が語られました。
本レポートでは、AIの力を真に解放する「組織OS」とは何か、そして日本企業がDXの次の一手として取り組むべき「AI時代の組織づくり」への具体的なステップを、イベントの熱気と共に詳細に報告します。
第1部 基調講演:AIと働き方の現在地:生成AIが変える2025年の日本企業の働き方
登壇者:Asana Japan 立山 東氏

最初のセッションで、Asana Japanの立山氏は「AI時代のワークマネジメント」と題し、多くの企業が直面するAI活用の壁と、その根本的な解決策を提示しました。
AI活用のジレンマ:「頻度」と「範囲」という二重の壁
Asanaは、AIのROIが出ない理由を「使用頻度」と「活用範囲」という2つの側面から分析しました。
第一の壁は「頻度」です。Asanaの調査によれば、AIの利用頻度と生産性向上の実感には極めて強い相関関係があります。AIを「毎日利用する」ユーザーの89%が生産性向上を実感しているのに対し、利用頻度が低いユーザーではその割合が激減します。
第二の壁は「活用範囲」です。AIを「個人」でのみ活用した場合、生産性向上を実感する割合はわずか33%に留まります。一方で、「部門横断的」にAIを活用した場合、その数値は51%にまで跳ね上がります。AIは、個人のタスク処理を高速化するだけでなく、組織横断の複雑なワークフローを最適化する際にこそ、その真価を発揮するのです。
にもかかわらず、日本においてAIを「組織全体」あるいは「部門横断的」に活用できている企業は、わずか17%に過ぎません。この「個人最適の壁」こそが、AIのポテンシャルを封じ込めている最大の要因です。
AI導入を阻む「AI以前の課題」=仕事のサイロ化
なぜAIの組織的活用はこれほどまでに進まないのでしょうか。Asanaはその根本原因を、AI技術そのものではなく、日本企業が長年抱える「仕事のサイロ化」という「AI以前の課題」にあると断じました。
コミュニケーションはSlackやTeamsの特定のチャンネルに閉じています。重要なファイルはBoxやSharePointの複雑なフォルダ階層に眠っています。基幹業務はSalesforce(営業)やSAP(財務・生産)といったSaaSに固定化され、それ以外の無数のプロジェクトは担当者のローカルExcelで管理されています。
このカオスな状態では、部門横断プロジェクトが発生するたびに、私たちは「Excelによる進捗管理(=実態と乖離した静的な報告書)」や、「あれ、どうなった?」という状況確認のためだけの不毛な定例会議を復活させるしかありません。
この整理されていない、断片化したデータ基盤の上にAIを導入しても、AIが組織全体の最適解を導き出すことは不可能です。AIは「過去のデータ」から学習することはできても、「今、隣の部門で何が起きているか」というリアルタイムの文脈を理解できないからです。
Asanaの回答:「ワークグラフ」という「組織OS」

この根深いサイロ化問題を解決するために、Asanaが提示した回答が、同社の中核技術である「ワークグラフ(Work Graph®)」です。
ワークグラフとは、「誰が、何を、いつまでに、なぜ(どの会社のゴールに紐づいて)」行うのか、という組織内のあらゆる「仕事」の関連性を構造化・可視化するデータモデルです。個人の「タスク」が、チームの「プロジェクト」を経て、会社の「戦略的ゴール」にまで、すべてリアルタイムで連動します。
これは、組織の活動そのものを動的に記述する「新しい組織のOS(オペレーティング・システム)」そのものです。
この「組織OS」としてのワークグラフこそが、AIによる組織変革を実現するための不可欠な前提条件(インフラ)となります。AIは、このOSの上で初めて、組織全体の「仕事の文脈」をリアルタイムで学習し、部門最適ではない「全社最適」のインテリジェンスを提供できるのです。
立山氏は、ある大手テクノロジー企業で数百のDXプロジェクトがExcelで分散管理されていた事例を挙げました。各担当者のExcel報告書を集め、経営レポートを作成するためだけに、PMOが膨大な時間を費やしていました。
これをAsanaに移行し、すべてのプロジェクトをワークグラフ上で構造化した結果、AIによるレポート作成(進捗の要約、リスクの特定、リソース配分の提案)が瞬時に可能となりました。その結果、従来Excelでの集計やレポート作成にかかっていた「月13人月」分という膨大な工数が「ゼロ」になったといいます。これは単なる工数削減ではなく、AIが「組織の今」を構造的に理解したことで、人間が「報告のための仕事」から解放された、AIによる組織変革の第一歩と言える象徴的な事例です。
第2部 パネルセッション①:パナソニック インダストリー株式会社
「デジタルの話というより、現場感のある泥臭い話」――変革の最大の壁は「見えない文化」
登壇者:パナソニック インダストリー株式会社 常務執行役員 CIO、SCM改革担当(兼)デジタル変革共創本部長 近田 英靖 様

電子デバイス・マテリアルを主に取り扱う事業会社、パナソニック インダストリーのデジタル経営変革を担う近田様は、「デジタルの話というより、現場感のある泥臭い話」と題し、DXの最大の障壁は「技術」ではなく、「海面下に隠れた『見えない文化や固定観念』にある」と語っています。
「『どうせ言っても変わらない』『上司の顔色を伺う』といった、従業員の心に深く根付いた諦めや過度な配慮の文化。これが、変革を進める上での大きな課題となっています」。
近田様のミッションは、単にシステムの刷新や最新のデジタル技術を導入することではなく、この旧来の「風土」を打破し、業務プロセスや働き方を含め、誰もが挑戦できるオープンな環境を築くことにあると述べました。
Asanaの役割:「変革マインド」を拾い上げる結節点
同社では、全社的なDX人材育成プログラムや、現場主導のボトムアップ改善活動など、数多くの変革プロジェクトが並行して進行しています。
これらの活動は、「基幹システム」で管理するほど大規模なものではありません。一方で、「Excel」で管理していては、それぞれの活動がブラックボックス化し、担当者の属人化を招き、組織としてのナレッジが蓄積されません。
「Asanaは、この『基幹システム(結果の管理)』と『Excel(個人の管理)』の中間に位置し、『変革プロセス』を可視化するとともに、部門や組織の垣根を越えて人と情報をつなぐ最適なツールです」と近田様は語ります。
主に経営判断に必要な数値や成果を管理する一方で、Asanaは業務プロセスや課題を見える化し、現場の動きを組織全体で共有します。
Asanaは、小さなタスクで変革に取り組む従業員を「誰も取り残さない」ためのマネジメントツールであり、ボトムアップの「変革マインド」を吸い上げ、全社的な大きな動きに転換していくための「結節点」として機能しています。この「結節点」が、組織に変革の好循環を生み出す重要な役割を果たしています。
第3部 パネルセッション②:KMバイオロジクス株式会社
マトリックス組織の「壁」をAsana AIで解消するAIO戦略
登壇者:KMバイオロジクス株式会社 執行役員 CMC技術開発本部長 園田 憲悟 様

ワクチンや血漿分画製剤などの医薬品を開発するという、極めて高度な専門性とスピードが求められるミッションクリティカルな事業を展開する同社は、1年前にAsanaを本格導入しました。園田様は、AsanaとAIを活用した「AIO戦略」について語りました。
課題:マトリックス組織移行による「会議の乱立」という副作用
同本部では、開発の専門性と効率性を最大限に高めるため、従来の課長中心の縦割り組織から、縦軸の機能別組織と、統括組織に属するリーダーが横軸としてその機能別組織を活用してプロジェクトをけん引する「マトリックス組織」へと移行しました。
しかし、この移行は想定通り、機能別組織の専門性の深化、ナレッジ蓄積、人財育成などに奏功しましたが、一方で一人の担当者が、機能ラインのリーダーと、プロジェクトラインのリーダーという複数の指揮命令系統に属することになり、「複雑な指示命令系統」が生まれました。
その結果、「誰が判断者なのかが曖昧になる」「情報共有と状況確認のための会議が乱立する」といった事態が発生し、組織の効率が著しく低下するという深刻な課題に直面しました。
実践:AIによるコミュニケーションの「質と量」の担保
この複雑な組織構造(マトリックス組織)が必然的に生み出す「運営コスト」をテクノロジーで解決するために、Asanaが導入されました。園田様は、その最大の目的を「コミュニケーションの『質と量』を担保すること」と明言します。
同社では、数十にも及ぶ複雑な開発プロジェクトをすべてAsanaで一元管理。さらに、Asana AI を積極活用しています。
毎週、Asana AIが、各プロジェクトのステータス、潜在的なリスク、発生している課題を自動で要約し、関係者全員にレポートとして提出します。これにより、従来は各プロジェクトリーダーが報告のためだけに資料を作成し、そのために行われていた膨大な「進捗確認会議」が劇的に削減されました。
「AIがファクトを整理してくれるおかげで、人間は『次、どうすべきか』という本質的な議論や意思決定に集中できるようになった。これにより、従来報告のためだけに行われていた会議や、そのための膨大な資料作成の手間が大幅に削減されました」と園田様は語ります。
これは、単にAIで業務を効率化した事例ではありません。AIとワークマネジメントツールを活用して、「マトリックス組織」という高度な組織運営のあり方そのものを見直し、その弱点を補完・最適化する「AIを活用した組織変革」の、極めて具体的な成功事例と言えます。
第4部 鼎談セッション:DXの「壁」とAIOの核心

セッションの最後には、登壇者3名による熱量の高い鼎談セッションが行われました。特に注目すべきは、以下の2つのハイライトです。
ハイライト①:名もなき業務に挑んだ現場、経営会議でつながる変革
議論が最も白熱したのは、近田様が提唱する「名もなき業務」にも変革をもたらしたエピソードです。
財務会計部門では、海外からの請求書を手入力で転記して照合するという「名もなき業務」が存在していました。こうした作業は非効率で、担当者の負担も大きいものです。近田様のチームは、この前提を見直し、AI-OCRを活用した「最小限の(MVP)プロダクト」をわずか3ヶ月で開発・導入しました。この取り組みにより、従来の属人的な作業が自動化され、現場の負担軽減と業務効率化が実現したのです。
しかし、この話の本当のハイライトは、その成果報告の「場」にありました。
「この取り組みは、経営会議の場で、実際に改善を担った現場の担当者が直接プレゼンしました。その結果、経営陣も自分ごととして捉え、自然と関心を寄せるにようになりました」

通常、経営会議で現場担当者が直接プレゼンするケースはそう多くありません。しかし、CIOである近田様が「これこそが我々が目指す変革のモデルケースだ」と意義を重視し、役員会に提案しました。この判断により、現場の声が経営層に直接届く貴重な機会が生まれ、変革の取り組みがより強い説得力を持つことになったのです。
- 現場の切実な「痛み(Pain)」を、AIを活用したMVPで迅速に解決する。
- その成功(Small Win)を、経営トップが見える形で「称賛(Praise)」し、公式な成功事例として認定する。
- それが全社的な「変革のうねり(Transformation)」へ繋がり、組織全体の文化変革を促すきっかけとなる。
このボトムアップの「熱量」とトップダウンの「戦略」が噛み合った瞬間こそが、DXによる組織変革の核心です。
ハイライト②:AIOと「課長に報告したくない」現場の本音
議論はさらにAI時代の組織のあり方、特に「中間管理職の役割変革」という、日本企業にとって最もセンシティブな核心に触れました。
立山氏から「AIの活用が進むと組織構造、特に中間管理職の役割はどう変わるか」という問いが投げかけられると、近田様から非常に示唆に富む発言がありました。
「AIを日常的に活用し、Asanaでプロジェクトがリアルタイムに可視化されている現場社員から、『(状況はAsanaを見ればわかるのだから)課長に報告したくない。部長への報告が面倒くさい』という本音が聞こえ始めています」
これに対し園田様は、「KMバイオロジクスではAsana AIのレポートによって会議時間が短縮され、より本質的な議論に集中できるようになった」と述べ、AIによる情報共有の効率化が、コミュニケーションの質向上に直接繋がっている実感を語りました。これは、AIが単なる報告業務の代替に留まらず、組織全体の意思決定プロセスを高度化させる可能性を示唆しています。

これらの発言は、AI活用がもたらす不可逆的な組織構造変革の、重要なシグナルです。
AIとワークマネジメントツールは、現場の進捗や課題をリアルタイムで可視化します。これは、これまで組織の「ミドル(中間)」が担ってきた「現場と経営層の“つなぎ役”」(=情報の収集・翻訳・伝達・進捗管理)としての機能が、AIによって代替され、急速に薄くなっていくことを意味します。
もちろん、これは中間管理職が不要になるという意味ではありません。彼らの役割が、従来の「管理(Management)」から、より高度な付加価値を持つ役割へと、AIを前提として「再定義」される必要があることを強く示唆しています。
その新しい役割とは、「進捗を管理し、報告書を作る」ことではなく、AIが提示するデータに基づき、より高度な「意思決定」を行うこと。そして、メンバーの能力を最大限に引き出すための「メンバーの育成・コーチング」です。AI時代の組織づくりとは、こうした人間の役割の再定義そのものなのです。
おわりに:AIと共に働く「新しい組織のOS」を設計すること
本イベントで一貫して語られたのは、AI導入やDXが単なるツール導入ではなく、組織文化の変革であり、仕事の進め方そのものの見直しであるという、本質的なメッセージでした。
パナソニック インダストリーの「AI変革ループ」と、KMバイオロジクスの「AIによるマトリックス組織の最適化」。この2つの先進的な事例は、Asanaのようなワークマネジメントツールが、部門横断的なコラボレーションや複雑な組織運営における「結節点(ハブ)」として機能し、AIが学習すべき「組織OS」の「基盤」となることを雄弁に物語っていました。
AI時代に求められるのは、AIに人間の仕事を代替させること(効率化)だけではありません。AIと共に働くことを前提とした「新しい組織のOS」をゼロから設計し、人間の役割を「より人間にしかできない、創造的な領域」へとシフトさせていくことです。
そのOSの中核こそが、本イベントで提示された「ワークマネジメント」であり、AI活用やワークマネジメントに関心を持つ私たちが今まさに推進すべき、「新しい働き方」への重要かつ具体的な第一歩に他なりません。
本レポートで示された「AIによる変革ループ」や「仕事のサイロ化」の解消は、Asanaという「組織OS」の上でこそ実現可能です。AI時代の「新しい働き方」への第一歩を、まずはAsanaの無料トライアルで体験してみませんか。
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