技術の進歩や社会環境の変化から、日本の小売業はさまざまな課題を抱えています。本記事では、そうした課題のポイントとともに、クリアするために大切な方法について解説します。昨今注目されているDX推進について、おすすめの具体例もご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。
日本における小売業の現状
これまで小売業といえば、実店舗で商品が並べられており、消費者はそれを手に取って購入する形が基本でした。しかし、現在はそうした形態とともに、ECサイトで欲しい商品を選び、クレジットカードで決済して自宅に届けてもらう、オンラインでショッピングが完結する仕組みも浸透しています。あるいは、実店舗で商品を確認してからECサイトで購入するといった具合に併用する形もよく見られるようになりました。このように、消費者の購買方法は多様化しています。
また、さまざまな技術の発達により、高品質な商品が次々と生まれているのも特徴です。裏を返せば、商品そのものの性能や価格だけでは、他社商品との差別化が図りにくくなっていると考えられるでしょう。商品の購入サイクルが長くなっている一方で、商品同士の競争が激化し、売れ筋商品は頻繁に入れ替わる状況にあります。
日本の小売業の課題とは?
小売業界が今後も成長していくためには、現在抱えている課題を的確に認識しなければなりません。では、どのようなハードルをクリアすべきなのでしょうか。以下、小売業が抱える主な2つの課題について解説します。
時代とニーズに応じた販売環境の整備
小売業が販売網を広げ、利益を得ていくためには、消費者との接点を多くすることが大切です。というのも、リアル店舗だけでは遠方から足を運べない顧客もいて限界があるからです。そこで、実店舗とともにオンラインでECサイトを運営する方法が考えられます。
消費者が訪れやすく購入しやすいように、さまざまな工夫をこらしている小売店舗は数多く見られます。しかし、経済産業省が2021年7月に公表した「電子商取引に関する市場調査の結果」によると、物販系分野のEC化率は伸展しているものの、カテゴリ別ではEC化が進んでいる項目とそうでない項目の差が大きく、小売業界全体で見ればまだまだ浸透しきれていません。
また、ECサイトさえ作成すればモノが売れるわけではなく、実店舗との連携といった仕組みも不可欠です。顧客一人ひとりにパーソナライズした提案が可能な、顧客と企業が密につながれる自社アプリを開発するなど、自社ならではのサービスをより強化していくことが重要でしょう。
人員不足に応じた店舗業務の効率化
現在、日本が抱えている課題のひとつが「少子高齢化」です。総務省発表の「令和4年 情報通信に関する現状報告の概要」によると、15歳から64歳のいわゆる「生産年齢人口」は、1995年をピークとして年々減少していることが分かります。さらに、これが2050年には2021年比で約71%、2065年には約61%と大幅に減少することが予想されています。
労働力を確保できなくなれば、これまでの店舗運営方法では立ち行かなくなる恐れがあります。そのため、小売業としては人員を減らしても運営できるよう、業務効率化を早急に検討することが必要です。
小売業の課題を解決する方法
現在抱えているさまざまな課題を解決するために、小売業はどのようなことをすべきでしょうか。店舗の業態などによっても異なりますが、ここではおすすめの方法を3つご紹介します。
積極的なDX推進
昨今よく耳にするようになった「DX」とは、「Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)」の略です。デジタルによって従来のビジネスモデルを根底から変革し、市場優位性を確保するための取り組みを指します。
小売業におけるDXは、店舗などで抱える課題を解決するために、デジタル化を進めることなどが主に考えられるでしょう。代表的な例としては、先述のECサイト導入が挙げられます。店舗になかなか足を運べない消費者も購入しやすいように環境を整えます。UIを工夫し、誰でも簡単に操作しやすいようにすることも、サイトからの離脱を防ぐポイントです。
また、オンライン接客も可能にすれば、遠隔でも商品の提案ができるため、販売機会を増やせるメリットがあります。
顧客体験の向上
消費者が商品を認知してから購入し利用に至るまでには、さまざまな体験をします。ビジネスやマーケティングの世界では、これを「顧客体験(CX:Customer experience)」と呼び、近年重要なキーワードとして認識されています。
顧客体験におけるポイントは、購入するときのワクワク感や、お気に入りの機能に対する満足感など、商品に対して顧客がどのように価値を見出しているかを把握し、それらをより向上させていくことです。他社にはない魅力を感じ、自社の商品やサービスに愛着を持ってもらえれば、顧客ロイヤルティが高まり継続的な利益の向上につながります。自社ならではの体験を提供するなどして、強みをアピールしていくとよいでしょう。
店舗体制の改善
前述したように、日本の企業は人手不足の課題に悩まれています。小売業も店舗体制が旧態依然のままであれば、いずれ店舗運営がままならなくなるかもしれません。そうした危機的状況を打破するためには、これまでの慣習や常識にとらわれることなく、思い切った変革にチャレンジすることが不可欠です。まず、現在あるすべての業務について棚卸しを行い、めざす目的によって仕分けをしましょう。
たとえば、業務効率化を図るもの、顧客体験を向上させるものなどが考えられます。限られたリソースを最適化するためにも、こうした業務の見直しは重要です。
小売業DX化の具体例
小売業でDXを進めるにあたっては、DXで具体的にどのようなことが可能なのかを知っておくと、明確なイメージを持って取り組みやすくなります。
よくある例としては、業務ごとに必要なツールを導入することが挙げられます。たとえば、電子マネーを含む自動精算レジや電話業務支援システムなどを導入すれば、煩雑さがネックとなっていた業務の効率化が可能でしょう。また、ECサイトの構築により顧客接点を増やすことで、地方の新規顧客の獲得が期待できます。
さらに、顧客の購買行動から収集したさまざまなデータを分析・活用すれば、それぞれの顧客により適した商品を提案できるため、販促の幅が大きく広がります。
顧客体験向上の具体例:OMO
最近よく聞かれるようになった「OMO」とは「Online Merges with Offline」の略で、「オンラインとオフライン(リアル店舗)との融合」を意味します。小売業においては、両者の間にある境界線をなくすことで、よりシームレスで自然な購買体験を顧客に提供できるのがメリットです。
具体的には、顧客がリアル店舗に行き、スマートフォン決済で商品を購入します。一方、店舗側は顧客が購入したデータを取得し、ECサイトでの顧客IDと紐づけます。そうすることで、顧客がリアル店舗で何を購入したかをデータ収集でき、顧客一人ひとりの興味があるものや趣味・嗜好などを把握可能です。ひいては、関連商品をオンライン上で提案し、さらなる販売につなげていけるでしょう。
まとめ
消費者の価値観や行動が多様化するとともに、同じような性能の商品が増えたことで、小売業界では、これまでの販売方法を踏襲していても売れなくなってきています。そうした課題を解決するためには、顧客体験(CX)を高めたり、店舗運営を見直したりするともに、DX推進に取り組むのも一案です。
DXではデータ活用がポイントであり、顧客に関するさまざまなデータを分析することで、次の販売チャンスがつかみやすくなります。これからの時代に小売業を成長させるためにも、OMOなどオンラインとリアル店舗との連携も含めて、ぜひDX推進を検討してみてください。
- カテゴリ:
- DX(デジタルトランスフォーメーション)