現代のビジネスシーンでは、複数のタスクを同時進行させる「マルチタスク」はごく一般的です。
ただし、適切なマルチタスクは生産性向上に寄与しますが、不向きな人が行ったりトラブルが起きたりすると、かえって生産性の低下を招きかねません。
本記事では、マルチタスクによるメリット・デメリットや、成功させる方法などを解説します。
マルチタスクとは?
マルチタスクとは、同時に進められそうなタスク(作業)を複数担うことで、業務効率を高めていく方法です。「multi(複数の、などを意味する接頭辞)」と「task(仕事、作業)」を組み合わせた言葉で、「multitask」という動詞もあります。
ビジネス用語としても一般的ですが、もともとはIT用語です。「インターネットを閲覧しながら表計算ソフトを使う」など、コンピュータが複数のプログラムを瞬時に切り替えながら実行を進めることを、マルチタスク(マルチプログラミング、マルチプロセス)と呼んでいます。
例えばタスクAとタスクB、タスクCの3つがある場合に、「優先度の高いタスクAのロスタイムの間、緊急度の低いタスクBの進捗をチェックする。さらに、すぐに終えられるタスクCにも着手する」のようなスタイルで、複数のタスクを効率よく進めていきます。
これらも全て、マルチタスクを行っていることになります。
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マルチタスクとシングルタスクの違いとは?
シングルタスクとはマルチタスクの対義語で、ひとつのタスクを完了させることに集中することです。ひとつのタスクを完了させてから、次のタスクに取りかかるという進め方です。
- デザイン画を集中して描き、完了したら配色に取り組む
- 重要なプロジェクトをひとつに絞って取り組み、完了したら次に優先度の高いプロジェクトを担当する
など、マルチタスクよりもシングルタスクが向いている作業も数多くあります。
マルチタスクによるメリット
マルチタスクを行うメリットには、下記に挙げるものがあります。
複数の仕事を同時に進行できる
マルチタスクの最も大きなメリットは、複数の業務を同時進行することで、生産性が上がることです。
各タスクの優先順位を決めて仕分けすれば、限られた時間をより有効に使えます。タスク同士の性質が似ているのであれば、期日の近いものをまとめて終わらせることも可能です。
普段からマルチタスクをこなすことを心がけていると、関わっている全ての業務の進捗状況もある程度把握しているはずなので、突発的な業務が入った場合も対応しやすくなります。
業務の全体像を把握しやすい
マルチタスクは、それぞれの業務に関する問題点の深掘りにもつながります。
例えば「営業効率を高めるための改善案をまとめながら(タスクA)、部下が目標達成できない理由を考える(タスクB)」というマルチタスクに対応していたとします。
この場合、タスクA・タスクBを同時に進めることで、問題の全体像を早く把握できます。タスクA・タスクBの因果関係にも気付きやすくなるはずです。結果として、両方のタスクにおいて、より高度な解決策を導いていけます。
コミュニケーションに役立つ
マルチタスクをこなすことは、良好なコミュニケーションを取るのにも有用です。マルチタスクに慣れていると、報告や指示、共有などもすんなりと進められるようになります。
複数の業務を抱えているということは、それに伴ってコミュニケーションを取るべき人の数も増えているということです。それらの人たちと協調しながら業務を進めることで、業務における「顔見知り」の人が増えていき、次の業務にもその人脈を生かせます。
また、常にマルチタスクをこなしている人は顔が広いことが多いので、周囲からの相談を受ける機会も増えていきます。それによって、まだ表面化していない新たな課題点の収集も可能になります。
マルチタスクによるデメリット
マルチタスクをこなすことにはメリットが多いですが、常に気を配っておくべきデメリットもあります。
生産性が低下する
マルチタスクをうまくこなせば生産性は向上しますが、失敗するとかえって生産性が低下しかねません。
例えば、タスクAからタスクB、タスクBからタスクCへと移るたび、「このタスクはどこまで進んでいたか」「このタスクには何が必要だっただろうか」などをその都度思い出す必要があります。
頭を切り替えるためのロスタイムが発生することで、トータルで見ると作業効率が落ちてしまうのは、意外な落とし穴かもしれません。
後から振り返ってみると、「シングルタスクでひとつひとつのタスクに集中して取り組む方が、着実にそれぞれのタスクを完了でき、結果的に効率的だった」ということも場合によってはありえます。
キャパオーバーになりやすい
キャパオーバーを招きやすいのも、マルチタスクのデメリットです。
シングルタスクであれば、そのタスクさえ期限内に終わらせれば良いため、スケジュール管理もリスク管理もシンプルです。
しかしマルチタスクでは、全てのスケジュールやリスクを管理しながら進めなければなりません。「クレームが発生したタスクAの対応に追われて、タスクB・タスクCに手を付けられていない」「タスクAの修正が必要になったので、タスクB・タスクCにも変更を加えなければならない」など、ひとつの作業だけでは起きなかったトラブルが起きる可能性もあります。
期日が近いタスクばかりを抱えている場合は、ひとつの作業が遅れると、ほかの作業にも影響を及ぼします。また、普段は問題なくこなせる量のタスクだったとしても、体調不良などの予期せぬ事態が起きた時、全てのタスクがストップしてしまうリスクもあります。
脳疲労が蓄積する
脳疲労が溜まる可能性があるのも、デメリットのひとつです。
まだ解明はされていませんが、人間の脳はそもそもマルチタスクに向いていないとも言われています。「人間の脳は2つ以上のことを十分には同時に進められない」ということも指摘されて話題になりました。
複数のデジタルデバイスを同時に使うことで脳に悪影響を及ぼす可能性がある、という調査も行われています。
脳疲労とまではいかなくとも、新しいタスクに取りかかるたびに素早く頭を切り替える「タスクスイッチング」を1日に何度も行っていれば、それだけでエネルギーを浪費してしまうのは想像に難くありません。
焦りによるミスが起こりやすい
マルチタスクを順調にこなしている間は良いですが、予期せぬトラブルなどによって作業が滞った時に、焦って普段なら考えられないミスが起きることがあります。
期限が迫っていて、「必ず終わらせなければ」という強いプレッシャーが生じるとなおさらです。
トラブルが起こると焦ったり慌てたりし、トラブルへの対処の難易度が高いほどイライラもつのります。
イライラすることで判断力が低下し、それによってさらに次のミスまで誘発してしまい、結果的に信頼関係に傷が入ってしまう、という悪循環に陥ってしまうことは珍しくありません。
全てのトラブルを予想するのは困難ですが、余裕を持ったスケジュールで動くなどの対策は必須です。
マルチタスクが向かない人の特徴
一般的に「マルチタスクをこなす人=有能、スキルが高い」というイメージを抱きがちですが、マルチタスクを順調にこなせるかどうかは、向き・不向きも大きく関わっています。
マルチタスクが向かない人は、次に挙げるような性質の人です。ただし、「マルチタスクが不向きな人=有能ではない」というのは大きな間違いです。その人はシングルタスクで本領を発揮する人かもしれません。その見極めも行うことが、企業全体の業務効率化にもつながります。
強いこだわりがある
強いこだわりがある人は、ひとつずつの業務遂行能力が高く、その出来栄えも期待できることが多々あります。しかしその反面、タスクを中断するのに抵抗があったり、良い意味で「適当」にすることに抵抗があったりという側面もあります。
そういった人はマルチタスクを避け、シングルタスクでひとつの作業に集中する方が、高いパフォーマンスを発揮しやすくなります。マルチタスクにこだわりすぎると、タスクが全体的に期日を越えたり、後回しにされたタスクの仕上がりが不十分だったりする、といったミスを招きかねません。
完璧主義である
職人気質、アーティスト気質で完璧主義な人も、あまりマルチタスクには向いていません。
こだわりを持ってじっくりと仕事に取り組むのは素晴らしいことです。しかし、複数のタスクを抱えると次のタスクに移ってからも前に行っていたタスクのことを考え続けて、集中力がかえって途切れることにつながりかねません。
そうなると、かえって各タスクの完成度が低下してしまいます。また、妥協できないあまり強いストレスやプレッシャーを感じ、体調を崩してでも各タスクを完遂してしまうという恐れもあります。
集中力が高い
集中力が高い人は深く考える傾向があるため、集中していたタスクを中断して新たなタスクに取りかかるのが大きなストレスになることがあります。
集中力を浅く広く分散させられる人の方が、気分転換も兼ねて複数のタスクをサクサクとこなしていくこともあります。
優先順位づけが苦手である
目の前のタスクを次々とこなしていくタイプの人も、場合によってはマルチタスクが逆効果になることがあります。
マルチタスクをこなすには、基本的には優先順位を付けることが欠かせません。優先順位を付けるためのフレームワークも多数あり、慣れると重要度・緊急度に応じて自然とタスクを処理していけます。
しかし、その作業がそもそも苦手で、「やるべきことはとにかくやる」という人は、かえって従来の優先順位の付け方にストレスを感じることがあります。実際、一定の質が保たれて期限内に完了していれば、何の問題もありません。
ただし、その方法もキャパシティに余裕があれば良いですが、タスクの量が増えすぎると、どうしても着手するのが漏れたり、期日に間に合わなくなったりする可能性はあります。最低限の優先順位は付け、周りとも共有することが大切です。
スケジュール管理が苦手である
マルチタスクを行うにあたっては、長期的なスケジュールを見据えた上で、「その日にしなければならないこと」「その日にした方がよいこと」を決めていく必要があります。
スケジュール管理を怠ると、決められた日時を間違えたり、次のタスクに支障が出たりするなどのミスが起こりやすくなります。また、より良いアイディアを練るなどの考える時間や、自分のプライベートな時間も確保しにくくなってしまいます。
そうなると、目の前のタスクをただこなすだけで、次につながる有益な仕事などに取り組む機会も逃すことになります。
マルチタスクをこなすには、「どのタスクを、いつ、どのくらいの時間をかけて」進めるのかを、あらかじめ考えておく必要があります。
人間の集中力は長く続かないので、自身が集中しやすい時間に区切り、その時間内で「今はメールの作成、整理、返信などの時間」「今は資料作成と修正の時間」など、同じ性質のタスクをまとめて処理するのも有効です。
マルチタスクを成功させる3つの方法
続いて、マルチタスクをより効果的にこなすために、汎用性の高い3つの方法をご紹介します。
1.「1×10×1」システム
細かいタスクが増えすぎていると感じたら、「1×10×1」システムを使うのが有効です。順番にひとつずつタスクを完了させていきましょう。
まず、各タスクを「1分以内で終わるもの」「10分以内で終わるもの」「1時間以内で終わるもの」に分類します。そして、できれば集中できる時間帯に、1分以内で終わるタスクを次々とこなしていきます。
例えば、すぐに終わるメールの返信、ミーティングの出席依頼などです。その次に、10分以内で終わるものに着手します。議事録の作成、資料の作成・チェック、時間のかかるメールの作成などが挙げられます。
そして、1時間ほど時間が必要なタスクは、遅くてもその週のうちに、完了させるための時間を確保するのがおすすめです。
この方法でタスクをこなしていくと、スムーズかつ着実にタスクを消化していけるため、達成感が得やすいのもポイントです。雑事に気を取られることも減るため、重要度の高いタスクに集中しやすくなります。
2.パーキングロット思考
パーキングロット(Parking-lot)は英語で直訳すると駐車場という意味があり、ビジネス上では目の前の問題を一時的に保留・蓄積しておくために使います。
パーキングロットは、会議やミーティングで「深掘りはしたいが、本題から外れて緊急性が少ないアイディア」を蓄積しておくためにも多用されます。パーキングロットは付箋に書いたアイディアを入れられる実物の箱でも良いですし、インターネット上で管理するツールなどでも構いません。
マルチタスクをこなす上では、「業務には直接関係しないちょっとした問題」を一時棚上げしておくのに有効です。
例えば「企画書を印刷するためにA4の紙を使っているが、B5の方がデスクの引き出しにしまうには便利かもしれない」とふと頭に浮かんだとします。しかし制作している企画書はすでにA4の仕様なので、「B5の方が良いかもしれない」というアイディアはパーキングロットに入れて、その時は忘れるようにします。
そうすることで、本筋には関係ない問題に悩まされることなく、それでいて、浮かんだアイディアを時間がある時に吟味することが可能になります。それらのアイディアの中には、優先度は低いものの深掘りすると有用なものが混ざっているかもしれません。
3.タスク管理ツール
マルチタスクを効率的に進めていくためには、タスク管理ツールの導入もおすすめです。
タスク管理ツールを使うメリットは、各タスクの内容や期日などの基本情報をはじめ、それぞれの進捗状況なども可視化できることです。
自分自身で完結するタスクを管理するのにも有効ですが、複数のメンバーで進めるタスクやプロジェクトにも適しています。
情報共有をリアルタイムでできるため、突発的な出来事でタスクの優先順位が変わってしまう場合、新たなタスクが追加された場合、各タスクやプロジェクト全体に変更があった場合などにも便利です。
自分自身がプロジェクトの管理者であれば、各メンバーに割り振ったタスクの量や進捗状況なども、ひと目で把握できます。
マルチタスクを実現するツール「Asana」
効率的なマルチタスクを支えるツールにはさまざまなものがありますが、その中でも「Asana」は全世界190ヶ国、93,000社以上の導入実績を誇るワークマネジメントツールです。
自分自身はもちろん、チームの各タスクやプロジェクト全体の調整・管理がよりスムーズになるための機能が充実しています。
GmailやMicrosoft Teams、Slackなど、現代におけるビジネスで欠かせない各種アプリケーションとの連携も可能です。関係する情報を一元化できるため、過剰な進捗報告をする必要もありません。遅れ・滞りがあるタスクもすぐにわかるため、ボトルネックの特定・改善にも役に立ちます。
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まとめ
生産性向上・業務効率化のために、マルチタスクはとても有用です。
その反面、不向きな人が無理にマルチタスクをしてしまったり、それぞれのキャパシティ以上のタスクを抱え込んでしまったりするのは、期日の遅れやミスの発生などにもつながり、かえって非効率です。
そうした場合は、マルチタスクにこだわることなく、ひとつひとつの作業を集中して行うシングルタスクに切り替えるのがおすすめです。
マルチタスクを実践する場合は、「Asana」などのタスク管理ツールも使いながら、突発的なトラブルにも余裕を持って対応できるよう、しっかりと進捗状況を管理することが大切です。
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