従業員エンゲージメントとは? 構成要素や向上させるメリット、高める施策を紹介

 2021.08.24  2024.02.01

終身雇用制度が崩壊し、人材の流動化が進んだ現在、優秀な人材を企業に定着させるために重要な要素として従業員エンゲージメントが注目を集めています。本記事では、従業員エンゲージメントとは何か、その概要や向上させるメリット、具体的な施策などをわかりやすく解説します。

従業員エンゲージメントとは|言葉の定義について解説

「従業員エンゲージメント」とは、従業員が自分の仕事に対して感じる熱意や献身の度合いを表すビジネスマネジメント用語です。Engagementという英語は、「契約」や「制約」などと訳されますが、ここでは「深い絆で結ばれている関係性」といったニュアンスを強く持ちます。

従業員エンゲージメントの概念はやや曖昧で、細かい定義については各企業が独自に行うことが必要です。ただし、大まかな特徴としては以下のようなことが挙げられます。

まず、従業員エンゲージメントが高い従業員は、職場や職務、同僚、自社の企業文化などに対してポジティブな感情的つながりを持ち、「自社に貢献したい」という強いモチベーションを自発的に抱くのが特徴です。そして、企業の成功と自分の幸福感がコミットするような、高い共感性を企業に対して抱いています。多少古びた言葉に置き換えれば、「愛社精神」という概念と似ています。

また、従業員エンゲージメントは、人材を資本として捉える「人的資本経営」の構成要素でもあります。人的資本経営とは、人材への積極的な投資を通して企業価値の向上を狙う経営手法です。従業員エンゲージメントは、人的資本経営の状況を示す重要な評価指標であるとされており、多くの上場企業がその調査結果を公表しています。

従業員エンゲージメントと従業員満足度との違い

従業員満足度との違いは主に、従業員が自社や仕事に対して持つ貢献意欲の有無にあります。

従業員満足度とは、従業員が自社や仕事、待遇、人間関係などにどの程度満足しているかを単純に示す指標です。ここには「楽な仕事だから満足」というケースも含まれるため、必ずしも従業員の貢献意欲を反映しているとは限りません。

これに対して、従業員エンゲージメントは、仕事に対する従業員のモチベーションも含んだ概念です。従業員に自発的にトップパフォーマンスを発揮してもらうためには、従業員エンゲージメントに注目する必要があります。

従業員エンゲージメントとロイヤリティとの違い

従業員エンゲージメントは、従業員の自主性や従業員と企業の双方向的な絆を重視している点でロイヤリティとも異なります。

ロイヤリティとは「忠誠心」を意味し、従業員だけでなく顧客に対しても使用される用語です。ロイヤリティという言葉には主従関係というニュアンスが強く込められており、自主性というよりは、従業員の「忠実さ」に注目しています。

他方で、従業員エンゲージメントは、従業員の自発的な貢献意欲を重視する概念です。また、従業員から企業への一方的な忠誠心を示すロイヤリティとは異なり、従業員と企業との相互的な関係性の構築が重要視されている点も違いとして挙げられます。

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従業員エンゲージメントを構成する3つの要素

従業員エンゲージメントを理解するには、その構成要素を明確に捉えることが重要です。グローバルコンサルティングファームのウイリス・タワーズワトソン社(WTW)によると、従業員エンゲージメントは以下の3つの要素から成り立っています。

参照元:WTW|エンゲージメント:back to basics! (図2) 

会社に対する理解度(Rational)

第一の要素は「理解度」です。これは、従業員が自社のビジョンや経営方針を具体的に理解し、支持している状態を指します。企業と従業員が共通の目標や方向性を持つことで、従業員は当事者意識を持ち、その結果、業績向上に寄与する可能性が高まります。そのため、従業員が企業の経営理念や目指すべき方向性を深く理解することは、エンゲージメント向上の鍵です。

会社に対する共感性 (Emotional)

第二の要素は「共感性」です。これは、従業員が自社や職場、同僚に対して持つ帰属意識や連帯感などを指します。企業の理念や目標に共感することで、従業員は職場や仕事に対してより強い献身性を示しやすくなります。共感性を高めるためには、企業理念の共有や従業員間での活発なコミュニケーションが重要です。

会社へ貢献するための自発的な行動意欲 (Motivational)

最後の要素は「行動意欲」です。これは、従業員が自主的に行動し、組織の成功に貢献しようとする積極的な意欲を指します。従業員の積極的な行動を促進するためには、成果に対する適切なフィードバックや、公正かつ透明性のある人事評価制度の整備などを通して、仕事に対するやりがいを育てることが不可欠です。また、自分の業務や自社の事業の意義を理解したり、上司や同僚と良好な人間関係を築いたりすることも、大きな影響力を持ちます。

このように、「理解度」「共感性」「行動意欲」は密接に関係し合い、3つそろうことで従業員エンゲージメントが形成されます。

従業員エンゲージメントが注目される背景

従業員エンゲージメンは、主に「人材の定着率向上」と「従業員のモチベーション向上」、そして「企業の成長機会の獲得」という3つの観点から注目されています。

人材確保・定着率向上のため

現在の日本はバブル崩壊以来、実質的に終身雇用制度が崩壊し、年功序列的な評価方法から成果主義ないしは実力主義へと移行する企業が増えています。こうした流れに従って、労働者側の傾向としても、「生涯ひとつの企業で働き続けるのが当然」という従来の考え方が廃れつつある状況です。現在の労働者は、よりよい待遇や環境を手に入れるためのキャリアアップの手段として、転職も当然視野に入れるようになっており、人材が流動化しています。

しかし、企業としては、優秀な人材には自社で長く活躍し続けてほしいと考えます。そこで、働きやすい環境の整備や待遇改善などの施策はもちろん、感情的なつながりという面からも従業員エンゲージメントを高め、従業員を自社に引き留めることが重視されるようになりました。

従業員のモチベーション向上のため

若い世代を中心に、働き方に対する価値観が多様化してきていることも大きな要因です。現代の労働者の傾向として、昇給や出世よりも、働くことの意義や働きがいを重視する人が増えてきています。

そのため、自社に対してモチベーションを感じてもらえない場合、入社後すぐに辞められてしまうことも少なくありません。辞めないとしても、やる気のない状態では仕事に対する積極性やトップパフォーマンスを期待するのは困難です。

そこで、従業員のモチベーションが主要な構成要素である従業員エンゲージメントの概念や、その向上に向けた取り組みが注目されるようになりました。

企業の成長機会を獲得するため

「企業の成長促進」という観点は、従業員エンゲージメントが注目される根本的な理由です。人材の流動化や価値観の多様化に適応して従業員エンゲージメントの向上に取り組むことは、従業員の自社に対する帰属心やモチベーションを向上させ、生産性の向上やトップパフォーマンスの発揮につながります。ひいては企業の成長を後押しするはずです。

また、従業員エンゲージメントの高い人材は、仕事やキャリアアップに役立つスキルの習得にも精力的に取り組みます。向上したスキルを社内で活用してもらえば、企業はさらなる成長機会を得ることが可能です。

日本企業における従業員エンゲージメントの現状と懸念

上記のように従業員エンゲージメントは企業にとって重要な意味を持ちますが、他国と比較して日本企業の現状を見ると、その危機的状況が浮き彫りになります。

現状

まず、他国に比べて日本企業では、従業員エンゲージメントの効果が適切に理解され、十分に重視されているとはいえません。現に、米国ギャラップ社による2023年の調査によると、日本企業において従業員エンゲージメントの高い従業員はわずか5%しか存在しないと報告されています。

世界全体の平均が23%なので、これは国際的に見て大変低い数字です。先進国によって構成されているOECDの平均値(18%)はおろか、東アジア内の平均値(17%)から見ても日本の従業員エンゲージメントは大きく劣っています。

参照元:Japan's Workplace Wellbeing Woes Continue
参照元:State of The Global Workplace 2023 Report 

将来的な懸念

では、従業員エンゲージメントの低い企業は、どのような事態を招くことになるのでしょうか。

従業員エンゲージメントの低下が引き起こす第一の問題は、従業員のモチベーションがコントロールできないことです。従業員エンゲージメントの低い従業員にとって、仕事は「やらされていること」に過ぎないため、最低限のパフォーマンスしか発揮しようとしません。その結果、職場全体の士気の低下や業績悪化なども危惧されます。

また、従業員エンゲージメントは自社への愛着などにも関わるため、低下すると新入社員の早期退職も含めた離職率の向上につながるリスクがあります。すなわち、従業員エンゲージメントの低下は、企業の成長や安定的持続を阻害する要因になりかねません。

従業員エンゲージメント向上で得られるメリット

従業員エンゲージメントを向上させることで、企業は上記のようなリスクを避け、業績向上や離職率の低下をはじめとする多くのメリットを得られます。

業績が向上する

業績の向上は大きなメリットのひとつです。従業員エンゲージメントの向上が従業員のパフォーマンスに好影響を与えることは、さまざまな研究によって明らかとなっています。従業員エンゲージメントの高い従業員は、自社の事業課題に対して強い関心を持ち、主体的に仕事に取り組むのが特徴です。それゆえ、従業員エンゲージメントの向上は、商品・サービスの品質向上やイノベーティブな企業風土の醸成につながり、業績の向上をもたらします。

離職率が低下する

離職率の低下も注目すべきメリットです。先述したように、現在多くの企業では、従業員の転職や早期離職が課題になっています。こうした状況下において、待遇面の改善など自社への愛着や働きがいを高める施策は、従業員を引き留める手段として多くのメリットをもたらします。実際、従業員エンゲージメントが高い組織は、そうではない組織と比べて離職率が87%も減少するという海外のデータもあります。

採用コストが低下する

離職率の低下と関連して、採用コストを低下させられるのもメリットです。まず、従業員の定着率が上がると、退職した人材を補填するために行う中途採用のコストを削減可能です。また、従業員エンゲージメントの高い職場は、やりがいや働きやすさを求めて、優秀な人材が進んで求人に応募してくることも期待できます。さらに、従業員エンゲージメントが高いと、従業員が友人・知人を自社に勧誘しやすくなるので、コストの低いリファラル採用を導入しやすくなります。

顧客エンゲージメントが向上する

従業員エンゲージメントの向上は、顧客エンゲージメント(顧客満足度)の向上につながります。従業員エンゲージメントが高い従業員は、自分の仕事にやりがいを感じて、熱心に業務を行います。自社の企業理念やプロダクトの魅力・意義などについても深い理解や共感を持つようになり、業務にも反映されます。その結果、仕事やサービスは自然とクオリティの高いものになり、顧客エンゲージメントの向上が可能です。

従業員エンゲージメントの測定方法

従業員エンゲージメントを高めるためには、まず現状把握から始めるのが大切です。従業員エンゲージメントを客観的に調べる方法としては、「エンゲージメントサーベイ」が挙げられます。

エンゲージメントサーベイとは、従業員エンゲージメントの状態を数値化し、現状を把握する社内調査のことです。「自社の使命や目的に共感している」「職場で自分が何を期待されているか知っている」「成長機会を与えられている」などの質問項目によって構成されており、従業員の現状について詳しく把握することが可能です。

従業員エンゲージメントを継続的に向上させていくためには、エンゲージメントサーベイによる現状調査から始め、次いで効果的な施策を検討・実施するという仕方で、PCDAサイクルを回していくことが大切です。

従業員エンゲージメントを向上させるための施策

従業員エンゲージメントを高める方法は複数あります。自社の現状や課題を踏まえて、優先順位を付けて順次取り組んでいきましょう。

ビジョンを共有する

企業と従業員の間で企業理念などのビジョンを共有しましょう。すでに触れたように、従業員エンゲージメントは企業に対する共感度なども含めた概念です。しかし、「自社がそもそもどのような理念を持った企業なのか」「自社の事業にはどういった意義があるのか」などについて基本的な理解がなければ、従業員は自社や仕事に対して共感性を持ちようがありません。

従業員エンゲージメントを高めるためには、新入社員の研修段階や入社前研修などの段階から、自社がどのような方向を目指しているのかを従業員に発信することが大切です。また、人事評価の評価項目を明確にするなどして、自社がどのような人材を求めているのかを明らかにすることも、効果的です。これにより、従業員は目的意識を持って業務に当たりやすくなり、自然と従業員エンゲージメントを高められます。

働きやすい環境をつくる

職場において良好な人間関係を築いたり、悩みなどを相談しやすい環境を作ったりすることも有効です。職場の雰囲気が悪い状況では、気持ちよく働けません。必要なときに素早くフォローし合えるような体制を作るためにも、日頃から職場全体のコミュニケーションをとりやすい状態にしておくことが大切です。

また、テレワークやフレックスタイムの導入などによるワークライフバランスの改善や、従業員一人ひとりのライフスタイルに合わせた多様な働き方を可能にする「働き方改革」の実施も、従業員エンゲージメントを高めます。

公平性の高い人事制度をつくる

成果や貢献度に応じて従業員に正当な評価を与えることも重要です。正当に評価されているという実感を得ることで、従業員はモチベーションを高めて、より積極的に業務に取り組むようになります。そのため、公平かつ透明性の高い人事制度の整備は、従業員エンゲージメントを改善するために欠かせません。

人事評価の基準には、成果・能力・情意の3種類があります。成果に見合った評価をすることはもちろん大事ですが、従業員エンゲージメントの向上を目指すなら、企業理念の体現度や業務に積極的に取り組む姿勢なども評価すると効果的です。

上司のフィードバック能力を上げる

従業員に「正当に評価されている」という実感を与えるには、上司のフィードバックも重要です。上司が自分の仕事を見守っており、折に触れて助言や励まし、評価をしてくれるという環境は、従業員の働きやすさや安心感に直結します。

したがって、上司のフィードバック能力を向上させることは、従業員エンゲージメントの向上に当たって不可欠です。そのためには、フィードバックスキル研修や評価面談研修などの研修を管理者へ実施し、効果的なコミュニケーション方法やマネジメント方法を学ばせることが役立ちます。

適切な人材配置・人材評価を行う

従業員の評価に見合った適切な報酬やポジションを用意することも欠かせません。いくらやりがいのある仕事でも、賃金や福利厚生などの基本的な労働条件が劣悪では、従業員が不満を抱えてしまいます。また、従業員が自分の能力や適性を活かせないと感じるような人材配置を行うことも、従業員エンゲージメントの低下を引き起こします。

もし労働環境や人材配置などに不備があるような場合は、まずはそこから改善に取り組まなくてはなりません。さらに成果や能力に応じて、適切に昇給・昇進といった措置を取れるようにすることも重要です。

従業員のキャリア開発を支援する

従業員がキャリアの成長を実感できる環境づくりも効果的な施策のひとつです。従業員が自らのキャリアパスを明確にイメージできるように支援することで、従業員の目的意識や働きがいを高め、スキルアップなどに取り組みやすくなります。

具体的な方法としては、キャリアデザイン研修や階層別研修の実施、社内FA制度や社内公募制度の導入などが挙げられます。企業と従業員の成長がリンクしている状態は、従業員と企業にとって理想的な関係のひとつです。

定期的にエンゲージメントを測定する

従業員エンゲージメントを高い状態で保つためには、先述のエンゲージメントサーベイを定期的に実施し、従業員のエンゲージメント状況を継続的に把握することも大切です。職場環境や人の感情の動きは流動的です。今は従業員エンゲージメントが良好でも、1年後にどうなっているかはわかりません。

また、従業員エンゲージメントを改善するために行った施策が有効に機能しているか、効果検証を行う必要もあります。そのため、定期的なエンゲージメントサーベイを通して、現状把握と改善点の検討を行い、PDCAサイクルを回すようにしましょう。

まとめ

従業員エンゲージメントの向上は、従業員の業務品質や生産性を改善し、職場で長く活躍してもらうために重要です。具体的な施策としては、ビジョンの共有や働きやすい職場づくりのほか、適材適所の人材配置や適切な人事評価、定期的な測定・改善などを通して、従業員と良好な信頼関係を築くことが挙げられます。

プロジェクト管理ツール「Asana」は、個々の従業員の仕事状況を可視化し、チームにおけるオープンな仕事の連携を可能にします。Asanaの活用により従業員それぞれのマネジメントを密にすることで、チームのつながりが強化され、結果として従業員エンゲージメントの向上を促進できます。

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