社員のやる気を引き出し、利益と成長につなげる

 2022.11.22  2023.04.13

WORK INNOVATION SUMMIT 24

社員のやる気は利益につながる

やる気のある社員とそうでない社員では、仕事の生産性や成果の質が大きく異なる。管理職を経験した人なら、だれでも実感があるだろう。やりたいこと、やるべきことはたくさんある一方で、社員をやみくもに増やせるわけではない。だからこそ、すべての社員にはやる気を持って取り組んでほしいし、やる気のある社員、つまり生産性が高く成果を出している社員には報いたい。けれども、会社の人材戦略や人事制度が追いついていない。これが、現在多くの管理職が抱えている悩みだろう。

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経営戦略を実行するためには、それを支える社員のパフォーマンス(生産性)が大きな影響を持つ。かつての産業構造であれば、社員のパフォーマンスはそれほど大きな影響はなかった。なぜなら、事業の根幹を支えていたのは製造工程であり、そのパフォーマンス(生産性)は設備に依存していたから。しかし、現代の市場環境で新規事業を立ち上げたり、既存事業を成長させたりするためには、事業のサービス化・デジタル化が欠かせない。サービス化やデジタル化を実現するために必要なのは、工場や設備のような固定資産ではない。必要なのはソフトウェアやビジネスモデルであり、それらを生み出せる人材である。イノベーションとは技術そのものではなく、既存の技術やアイディアの組み合わせだと言われる。だから、設備投資よりも、人材や組織への投資の方がインパクトが大きいのだ。

どんなに資金力があっても、戦略の実行を推進できる人材がいなければ、競争に勝てない。そう考えると、現代においてパフォーマンスの高い社員の存在がいかに重要か、あらためて実感できる。そしてだれしも実感しているように、社員のパフォーマンスは「やる気」によって大きく左右される。つまり、経営戦略を実行するためには、社員のやる気を引き出すことが極めて重要なのだ。

オールウェイズオンマーケティング
Asanaのセキュリティとプライバシー

経営戦略と人材戦略は表裏一体

2022年5月に「2.0」が公開されたことでふたたび注目を集めた「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(2020年9月)」、いわゆる「人材版伊藤レポート」をご存じの方も多いだろう。このレポートでは、人材戦略について3つの視点と5つの共通要素で整理した上で、もっとも重要な点として「経営戦略と人材戦略を連動させるための取り組み」が強調されている。

なぜなら、企業が現在直面している経営課題は、人材面での課題と表裏一体であり、市場が変化しているならば人材戦略もそれに合わせて変化しなければならないからである。「経営戦略を実行するには、人材戦略をアップデートする必要がある」。人材版伊藤レポートのキー・メッセージはここに集約される。

人材版伊藤レポートで示された経営陣が主導して策定・実行する、経営戦略と連動した人材戦略についての3つの視点(Perspectives)と5つの共通要素(Common Factors)

  • 視点① 経営戦略と人材戦略の連動(人材戦略は、経営戦略と連動しているか)
  • 視点② As is - To be ギャップの定量把握(目指すべきビジネスモデルや経営戦略と現時点での人材や人材戦略との間のギャップを把握できているか)
  • 視点③ 企業文化への定着(人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着しているか)
  • 要素① 動的な人材ポートフォリオ(目指すべきビジネスモデルや経営戦略の実現に向けて、多様な個人が活躍する人材ポートフォリオを構築できているか)
  • 要素② 知・経験のダイバーシティ&インクルージョン(個々人の多様性が、対話やイノベーション、事業のアウトプット・アウトカムにつながる環境にあるのか)
  • 要素③ リスキル・学び直し(目指すべき将来と現在との間のスキルギャップを埋めていく)
  • 要素④ 社員エンゲージメント(多様な個人が主体的、意欲的に取り組めているか)
  • 要素⑤ 時間や場所にとらわれない働き方

ビジネスモデル

社内の懐疑派に対抗する

「人材が大事」「社員のやる気を引き出すのが重要」「そのためには人材戦略を大胆に変えるべき」と、どんなに声高に叫んだところで、それだけで社内の人材戦略や人事制度が変わることはない。むしろ、懐疑派からは「社員を甘やかしても良いことはない」という反論すら出てくるだろう。そこで、まずは「社員のやる気は利益に直結する」という裏付けをいくつか用意したい。

「人材版伊藤レポート」でも取り上げられているものの、その重要性やデータが示すインパクトに対して、やや掘り下げ不足と感じるのが「従業員エンゲージメント」の重要性である。エンゲージメントという言葉はわかりにくいかもしれないが、エンゲージメントが高い社員はやる気にあふれる状態にある、と考えるのがわかりやすいだろう。結論を先に言えば、エンゲージメントが高い社員の生産性は極めて高く、チームや企業のパフォーマンスが大きく上がる。アウトプットが増え、利益も増え、結果として企業価値の向上につながるのである。

やる気になった社員の生産性が高いことは、感覚的にも理解できるだろうが、詳しくデータで見ていこう。まず、やる気あふれる社員は、そうでない社員に比べて生産性が2.25倍も高い。不満を持つ社員と比べると実に3倍以上の差となる。(図1、出所:コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーとEconomic Intelligence Unitによる合同調査)

図1
やる気溢れる社員の生産性の生産力は2倍超

(出所)President Online、「"3人に1人"の不満社員を奮起させるには 成長ビジョンは「やる気」の原動力

生産性に2〜3倍もの差が出るという事実には驚かざるを得ない。だが、これがホワイトカラーの生産性の実態を表しているとも言える。例えば、完成品の生産ラインのような、すでに標準化と効率化が進んだプロセスの生産性が2倍になるということはまずあり得ない。こういった世界では数%の向上を目指した改善活動がおこなわれているものだ。一方で、ホワイトカラーの仕事は生産ラインほどには標準化・効率化されていない。もっと言えば、創造性(クリエイティビティ)が要求される仕事は、そもそもプロセスを定義することすらむずかしい。これは決して新製品開発や新規事業のような大きなイノベーションを目指す場合だけに限らない。日々の仕事の中で、ちょっとした工夫を凝らすことが成果に大きな違いをもたらす場面は数多くある。不満足社員が多いチームと、やる気にあふれる社員が多いチームでは、日々の仕事の生産性が2〜3倍違うと思うと、自分のチームについてあらためて振り返りたくなる管理職は多いのではないだろうか。

「ウチのチームメンバーは大丈夫」と思った管理職の方も、次のデータを見てほしい。日本企業における社員のエンゲージメントは、グローバル平均と比べてきわめて低いのだ。これはベインとプレジデント社による日本での追加調査(図2)でも、人材版伊藤レポートで引用されたギャラップ社の調査(図3)でも同様の傾向を見せている。なかでも特に目立つのは、不満を持つ社員の多さである。先ほどのデータ(図1)をあらためて見直すと、不満を持つ社員の生産性は満足している社員より3割も低い。不満を持つ社員が多ければ多いほど、会社としての生産性が下がるのは当然だ。

図2
日本企業はグローバルに比し不満層が多い

(出所)President Online、「"3人に1人"の不満社員を奮起させるには 成長ビジョンは「やる気」の原動力

図3
従業員エンゲージメントの国際比較

さらに、従業員エンゲージメントが高い会社は利益率が高いことも明らかになってい(図4)。従業員エンゲージメントと営業利益には正の相関が見られ、「エンゲージメントスコア1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が0.35%上昇する」こと、さらには、「翌四半期の営業利益率」と「エンゲージメントスコア(ES)」の相関では、「ES1ポイントの上昇につき、翌四半期の営業利益率が0.38%上昇する」という調査結果が出ている。ここからわかることは、従業員エンゲージメントの向上は、かなり短期間で利益に直結するということだ。これはこれまで見てきたデータと組み合わせると納得感がある。やる気あふれる社員の生産性は2倍以上なのだ。そういう社員が増えれば、すぐに成果が表れるのも不思議ではない。

図4(ESはエンゲージメントスコアの略)
ESはエンゲージメントスコアの略(出所)株式会社リンクアンドモチベーション、「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果(2018/9)

やる気を引き出すには

ここまでデータが揃うと、日本企業の生産性の低さや利益率の低さの原因として、従業員エンゲージメントを考えないわけにはいかないだろう。ここで、「やる気のない社員が悪い」「もっとやる気を出せ」と言ったところで意味がない。むしろ、これらのデータから言えることは、多くの日本企業にとって「これまでどおりの当たり前のやり方」をしていては、社員のやる気は引き出せず、組織としての生産性が高まらないため、利益は増えず、企業価値も高まらない可能性が高いということである。日本企業に不満を持つ社員が多いのは、終身雇用・年功序列に代表される日本型人事制度の弊害であり、人材の流動性が低いことが原因と分析されることが多い。だが、そう言われても経営者や管理職の皆さんは困ってしまうだろう。従業員エンゲージメントを高める具体的な方策はないのだろうか?

ここでヒントになるのが、従業員エンゲージメントの特性である。婚約や約束という意味もあるエンゲージメントという言葉が表すとおり、一方通行で成り立つものではない。社員個人で高められるものではなく、会社と社員の相互理解であり、相互作用によって上下するものである。例えば、会社との信頼関係が強まったり、会社の将来に対する希望を感じられれば、従業員エンゲージメントは高まるのだ。会社と社員の相互理解という観点で、もっとも日常的であり、どの社員にとっても大きな存在なのは目標設定と達成状況の管理だろう。
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目標設定や達成状況の把握は、年1〜2回の評価のためだけにやることではない。目標と達成状況を適切に管理することで、社員のやる気を引き出すことができ、日々の仕事のパフォーマンスを高めることにつながる。

この仕事はどんな意味があるのか、どれくらい意味があるのか
上司は自分の仕事をちゃんと見てくれているのか
自分がやったことは会社の戦略や目標に貢献しているのか
無駄な仕事が多いことを上司はわかっているのか

このような、一見すると小さな疑問が、実は日々の仕事のパフォーマンスに大きく影響する。これらの疑問を持っているということは、会社と社員が相互理解できていない状態であり、エンゲージメントを下げる要因になっているのだ。

ここに驚くべきデータがある。自分の仕事と自社の目標のつながりをよく理解しているという社員はわずか15%、自社で目標の設定・伝達が効果的に行われていると回答している社員はなんと6%しかいないのだ。

図5

Asana Japan株式会社、「Asana Goals Survey Research」
(出所)Asana Japan株式会社、「Asana Goals Survey Research」

「これまでどおりの当たり前のやり方」を脱し、社員のやる気を引き出すポイントはここにありそうだ。大きな目的に貢献していると感じられるとき、人はやりがいを感じる。社員のやる気を引き出そうと思ったとき、日本企業に不足しているのは、会社のミッションや目標との結びつきである可能性が高い。昨今、企業のミッションやパーパスが重視されているのは、社会や顧客に選ばれるためという側面もあるが、同時に大事なステークホルダーである社員が働く意義を感じるためでもある。消費者として、企業の存在意義や活動の目的を意識する機会が増えている社員ならば、会社の存在意義や活動の目的を知りたいと思うのは当然だ。そして自社の活動の社会的な意義に共感するならば、目的達成に貢献したいと思うのは自然なことだ。

「ここ数年の社会の変化を見ると、仕事を通じて社会に貢献している実感を得たいという欲求は切実なものだと理解しています」「最近の若い人たちは(中略)将来に何も期待できない状況に閉塞感を覚えているからこそ、自分がどう社会に貢献できるかを重視しているのではないでしょうか」

サイバーエージェント代表執行役員社長 藤田晋氏

(出所:DIAMONDハーバードビジネスレビュー2022年6月号)

このような時代背景を踏まえた上で、社員のやる気を引き出すには、自社のパーパスやミッション、それを実現するための今期の目標、そのためにチームが何をするのか、なぜこの目標が設定されたのかをしっかりと伝える必要がある。その上で、社員個人個人の仕事が、その目標にどのようにつながっているのか、貢献しているのかが理解できる仕組みが必要なのである。

やる気がアウトプットにつながった例

会社の成長にともない、組織が大きくなり、社員の相互理解がむずかしくなった。リモートワークが増え、お互いの状況が把握しにくい。市場の変化にすばやく対応するために、組織横断的なプロジェクトが増えてきた。事業の複雑性が増し、ひとつのプロジェクトに関わる社員や関係者の数が増えていく傾向にある。

このような状況で、社員が大きな目標を見失わず、エンゲージメント高く働くためには、会社の目標から個人の日々の業務へのつながりをわかりやすく確認できることが重要だ。組織横断的なプロジェクトであっても、社内外の関係者が流動的に出入りするような状況であっても、スムーズに参照できることが望ましい。これを実現しているのが、Asanaである。タスク管理プロジェクト管理といった観点もさることながら、Asanaを利用している企業では、「目標と自分の仕事のつながりを可視化する」ことの効果を実感しているのだ。

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株式会社カカクコムでは、部門の垣根を超えたコミュニケーションを向上するため、そしてプロジェクトや職能と言ったさまざまな軸から業務を見える化するためにAsanaを導入した。その結果、チームが自律的に動けるようになり、製品・機能をリリースする数が増加した(株式会社カカクコム 執行役員 食べログシステム本部長 京和崇行氏)。社員数を増やさずに、製品・機能リリースが増えたということは、生産性が上がったことを意味する。その理由として「社員が自律的に動ける」ようになったことを上げており、まさに「やる気あふれる社員の生産性は2.25倍」を実証していると言えよう。Asanaによって「チームやプロジェクトごとの仕事を可視化」したことで、社員のやる気を引き出し、生産性を高めることができたのだ。

経営戦略と社員の働きがいは両輪

「時間当たりの生産性を求めるなら軍隊的なオペレーションを徹底すればいいが、企業価値の向上という広義の生産性向上を実現するには、社員の働きがいが大きな要素になる。制度変革から入ると変わらないので、大切なのは戦略と社員のエンゲージメント」

パナソニック コネクト株式会社 代表取締役 執行役員 社長・CEO 樋口泰行氏

(出所:ZDNet Japan「パナソニックコネクトの樋口氏らが企業改革を振り返り--苦難や苦言も -」2022/7/5

人材版伊藤レポートで強調されていたのは、経営戦略と人材戦略の整合性であった。新しい事業やサービスを生み出したり、デジタル化を進めたりすることで企業価値の向上を目指すという経営戦略を実行するには、資金や設備があれば良いわけではない。それを支える人材が不可欠であり、社員のやる気を引き出すような人材戦略が必要となる。社員のエンゲージメントが高まれば、生産性が高まりスピードが上がり、アウトプットも増える。チームや企業のパフォーマンスが大きく向上し、利益も増える。

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「正しい企業文化の上にしか、正しい経営戦略は成り立たない」。5年間に渡ってパナソニックコネクト(旧パナソニック コネクティッドソリューションズ社)の改革に取り組んできた樋口泰行氏は、経営戦略と人材戦略を密接に結びつけることの重要性をこう表現している。業務効率を数%高めるような生産性向上ではなく、イノベーションを加速することで新しい価値を生み出すような生産性向上を目指すなら、社員のやる気を引き出すことが欠かせない。そのためには、これまでのやり方では不足していた、「会社のパーパスや目標」と「会社の目標と個人の仕事のつながり」を伝えることが効果を発揮する。人事制度を変えるのはむずかしくても、これならミドルマネージャーでも取り組める。

成長著しい企業で常に新しいことにチャレンジしている方、大企業で新規事業やDXプロジェクトにたずさわり、会社の変革を推進している方には、ぜひここから取り組んでほしい。

萩原 雅裕 / Prodotto合同会社 代表
萩原 雅裕
Prodotto合同会社 代表
/Asanaアンバサダー

萩原 雅裕 / Prodotto合同会社 代表
NTTデータ、ベイン・アンド・カンパニー、日本マイクロソフト、Microsoft Corporation(本社)を経て、創業メンバーとしてワークスモバイルジャパン株式会社に参画。法人向けコミュニケーションツール「LINE WORKS」の立ち上げに携わり、導入社数30万社超、ARR78億円(2021年現在)までの成長に貢献。プロダクト責任者、マーケティング責任者、カスタマーサクセス責任者、戦略担当役員などを歴任。現在は、SaaSグロース支援、B2Bマーケティング支援、経営アドバイザリーサービスを提供。働き方改革やビジネスコミュニケーションに関する講演、テレビ・ラジオ出演、新聞・雑誌掲載の実績多数。
慶応義塾大学卒業、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(MBA)修了。趣味は、筋トレ、キャンプ、積ん読。
チームの目標と個人の業務を「Asana」でつなぐ チームラボの成長組織マネジメント

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